前回の成年後見のコラムでご説明したとおり、成年後見という方法は、「代理」や「取消」という方法、すなわち、後見人が高次脳機能障害者に代わって契約等をできるようにしたり(代理権)、高次脳機能障害者による契約を取り消したり(取消権)できるようにして、高次脳機能障害者の財産を保護しようとするものです。
しかし、これのみでは財産保護の方法として不十分であることは否めません。
というのは、成年後見の審判によっても、高次脳機能障害者が財産(財産管理権)を有しているので、詐欺等の被害に遭って財産を無くす危険性、浪費癖から財産を失う危険性があるからです。
そこでこうしたリスクを無くす方法として、信託(信託契約)が考えられます。
信託(信託契約)は、高次脳機能障害者が、ご家族等(受託者)に財産(財産管理権)を移した上で、高次脳機能障害者ご自身のためにその財産が使われるようにご家族等(受託者)に管理を委ねるものです。
成年後見と信託との根本的な違いは、上述のとおり、成年後見の場合は高次脳機能障害者は財産(財産管理権)を有しているのに対し、信託(信託契約)の場合は、財産(財産管理権)はご家族等(受託者)に移される点にあります。そのため、高次脳機能障害者が、詐欺等の被害に遭って財産を無くすことも、浪費癖から財産を失うこともなくなるのです。
また、成年後見のコラムでご説明した、継続的に専門家へ報酬を支払うというコスト負担もありません。
ただし、家庭裁判所が関与しない信託(信託契約)の場合は、成年後見の場合以上により適切な財産管理者(受託者)が求められます。
また、それぞれのケースに応じた的確な信託契約書の作成が必要になりますので、信託契約書作成の際には、信託の知識や経験のある弁護士等の専門職のサポートが必要になります。